前回は、やる気(達成動機)の話をしました。
そして、失敗を恐れる気持ち(不安動機)がやる気(達成動機)を打ち消してしまう話をしました。
自己肯定感を上げるために成功体験を積む1(達成動機) - あすかの人生劇場
今回は、課題に対する「できそうだな!という気持ち(主観的成功率)」を上げ、より高い課題に挑めるようにしていく考え方をご紹介します。
原因帰属
ある課題に成功した(失敗した)時にその原因を何ととらえるか、を原因帰属といいます。原因帰属のしかたは人によって違います。
かけっこの順位が悪かった時、その理由を「練習が足りなかったのだ」とする人と「自分は走る才能がないのだ」とする人では、次回走る時のやる気に差が出ます。
成功(失敗)の原因は大まかに4つに分類されます。
- 運が良かった・悪かった
- 課題の困難度が簡単・難しい
- 努力を十分した・足りなかった
- 能力が高い・低い
「運」は外的要因です。自分の内面とは関係ありません。そして不安定なものです。
「課題の困難度」も外的要因です。しかし、安定したものです。
「努力」は自分自身の内的要因です。努力したりしなかったり不安定なものです。自分の意志で統制可能なものです。
「能力」も内的要因です。安定していて変えられない、自分では統制不能なものです。
成功経験の多い人
成功経験の多い人は、成功したのは自分自身の「高い能力」「高い努力」のおかげだ、とみなします。
自分に 誇り を持つことができます。
今回の課題への「成功しそうだ!という気持ち(主観的成功率)」が50%から90%(例)に増え、成功経験を獲得し、よりステップアップした次の課題への道が開けます。
一方、成功経験の多い人は、失敗の要因を「努力不足」とします。
変更可能で自分で統制できる「努力」が原因であれば、自分次第で次は成功できると思えます。
失敗経験の多い人
失敗経験の多い人は、失敗した原因を「能力の欠如」としてしまいます。
固定的で統制できない「能力」が原因なので、自分自身に 恥辱 を感じます。
やる気が下がります。
次もきっとできないだろう、と主観的成功率が下がります。負のスパイラルに陥ります。
原因帰属をコントロールする
やる気が出ないまま課題に挑むのでは負のスパイラルから抜け出せません。
冷静に自分をコントロールして正のスパイラルになるよう調整しましょう。自分自身にも、子どもや社員の教育にも有効な方法です。
「運」のせいで失敗したと思っている人
外的要因で不安定である「運」のせいだと思っていると、自分が何をしても無駄なので頑張る気が起きません。
対処法としては、成功した原因を内的要因である「努力」とみなすよう意識し、とにかく自分の内面に目を向けることを習慣づけすることです。
「課題の困難度」のせいで失敗したと思っている人
失敗したのは課題が難しかったからだ、とすると、次の課題も難しい場合対処しようがありません。プロセスに目を向け、自分も努力したのだ、と気付くとモチベーションを保つことができます。
「努力」不足のせいで失敗したと思っている人
努力が足りなかったからだ、とするのが一番やる気に繋がります。どのくらい努力が足りなかったのか、どのように努力すればいいのか、具体的に対策を立てて次の課題に臨めます。達成した時にご褒美を与えるのも効果的です。
「能力」不足のせいで失敗したと思っている人
主観的成功率が一番下がっている状態です。今のままではダメだという気持ちはあっても、何をやっても無駄だと思ってしまいます。学習性無力感を感じている可能性があります。ハードルを低くして少しずつ回復することが必要です。
自分で統制不能の状態を経験することにより、無力感で何もできなくなっている状態。
「失敗経験の多い人」を「成功経験の多い人のグループ」に入れると、周りの考え方に触発され、負のスパイラルから抜け出せることがあるそうです。あまりにも自分とかけはなれた相手なら参考にならなそうですが、やはり他人のやり方を学ぶのは大事なことだと思います。
発達障害と学習性無力感
発達障害があると、学習性無力感を感じやすくなります。
ASD、ADHD、LDなどの特性によりミスが多いことと、それに対して怒られることが積み重なり、自分の能力を疑います。自分の努力不足を責めます。
人間は小4くらいから自分自身への評価が可能になるそうです。その頃から自尊心が低くなっていきます。不登校が多くなる時期です。
発達障害でも自尊心が高い人もいますが、自尊心が高くても、失敗や周囲との軋轢が多ければ鬱など二次障害になることもあります。
また、発達障害の人は、勉強や友人関係が上手くいったとしても、それを先生や友達のおかげとは考えにくいです。これは、怒られたりいじめられたりして他者に対する信頼感が乏しいからです。成功を他者との関係と結びつけられない状態は、大人になって仕事をする上での障壁となります。
知的障害がない場合、勉強や生活態度に対して「やればできる」と言われたり思われたりするので、できない場合に自分の努力不足のせいだと思いがちです。このような状態が続くと、テストの点が悪いのも、嫌われるのも、天気が悪いのも、全部自分のせいだと思ってしまいます。部分部分で褒められても素直に聞けなくなります。
正確な自己認知、自己評価ができなくなっている状態です。
子どもの場合、家族や教師が肯定的な態度をとることで自己評価が高くなるという実験結果があります。
- まずは大人が障害を理解すること。
- 型に当てはめず、その子自体を見ること。
- 子どもの気持ちをありのまま受け入れること。
- 子どもが相談したり心情を吐露できる雰囲気を作ること。
- 努力不足かどうか適切にアドバイスすること。
- 結果でなく努力をほめてあげること。
ここから始めます。
また、主観的成功率が低い子どもへの帰属訓練というものがあります。
子どもが80点位とれるような問題を作成し、テスト後に「あなたは○点だけ正解でした。このことは、もうちょっと頑張るべきだということです」と失敗に「努力不足」の帰属をさせるようフィードバックします。これを繰り返すと、努力できるようになってきます。
逆に、成功体験が多い子どもに簡単な問題を与え続けると、子どもは成功を「能力」に帰属し、難しい問題で点数がとれなくなってくるとやる気を無くしてしまうという実験結果もあります。
頭の良い子どもが特に努力しなくても良い成績をとりつづけると、いつか難しい問題でくじけた時に、自分は努力しなくても何でも解けるはずだったのにこれが限界か、となんの努力もせずに諦めてしまうのがこれです。
これに対しては大人の助言が必要です。
同級生がどれだけ努力しているか見せること、本人も努力することで成績アップが可能なのだと教えること、または勉強以外の場面(部活や趣味)で努力や反復練習により簡単に上達するのだ実感させることが有効です。
大人の場合は、自分で障害を正しく知ることが第一歩です。そして、冷静に自己評価を下すこと。鬱状態だと冷静な思考ができないので、まずは休んで回復すること。
- 100点じゃなくても良いことを知る。(完璧主義向け)
- 目標を低く細かく設定してまずは成功体験を増やす。
- 簡単な課題でも、自分の努力に目を向ける。努力を褒める。
- ご褒美を与える。(大人ならご褒美もバラエティに富んでいるはず)
- 過去の失敗と今の状況を同一視しない。
- 自分のやりたいことのために努力してみる。(遠慮がちないい子ちゃん向け)
- できないことはできないと認める。与えられた能力に感謝する。良い部分を強欲に伸ばす。虎視眈々と。
成功・失敗を振り返って原因帰属し、自分自身にフィードバックするには心の余裕が必要です。体調を整え、感情に揺さぶられず冷静に判断を。
自分の頑張りを認めてあげると、一歩ずつ道が開けます。
参考:「教育心理学」北尾倫彦、他(※内容が古いのでおすすめはしない)
参考:「ADHD児の自己評価とその原因帰属に関する検討」岩手大学人文社会科学部紀要